上杉那郎 「おもひで屋」

おもひで屋
「BOOK」データベースより
初めて聞く母の声、初めて見る父の姿。そこで少年が出会った四日間の奇蹟。甲子園出場の道を断たれ、同時に母を失った、西沢素晴。失意と絶望の中に届いた「想い出チケット」を手に、素晴は19年前の世界に向かった。父の甲子園への夢を叶えるため、そして、列車事故に遭う母を助けるために…





19年前の世界へ・・・
現実離れした舞台設定は、全く気に入らなかった。
それどころか、どんな「想い出」が手に入るのだろうと、興味津々で読み進んだのに、結局、未来というか現実の世界で事実として知っていることの後追いだけ。
とりたてて、両親の愛が感じられる心あたたまるエピソードがあったわけでもない。
主人公が生まれた時からずっと眠ったきりの母親の若い時に「会った」というだけ。
もっとね、感涙!って感じを根拠なく求めていたものだから、
ちょっと肩すかしの気分。


でもでも、それこそ抱いてもらったこともない、そこに眠っていただけの母親が、
そこに元気な姿で存在し、対話をした!ということ自体が
「想い出」=「母親」を得たということなんだなぁと
鈍い私は、読み終えた後、じわじわと理解した。
物心ついた時から、植物人間状態の姿しか目にしていなければ、
そこに「母親」への想いを抱くことが出来ないものね。



ただ一つ!
既にいい大人になっているはずの大人が、いつまでもウジウジ子どもみたいな感覚で動き、結局、いろんな事態を引き起こしてしまったという
「岩野」の存在はどうにかならなかっただろうか。。。
ま、この人物がいなくちゃ話はすすまないが、

キーワードのようにもなっている「このクズが!」という暴言を吐くのが
しっくりこなくて。
暴言を吐かずにはいられなかった。。。というように描かれていなくて
ただただ「こんな大人いるか?」と嫌悪感をもってしまった。


親子の情なんだけど、息子と父が同い年の立場で会ってしまうからか
「父」に指示する息子。
もうちょっとだけ、息子への父の愛という「おもひで」も
主人公にあげたかったなぁ